← 火種に戻る
ブランディング

スタートアップが最初にやるべきブランディング——ロゴより先に言葉を決める

2026年5月15日 8分で読める
スタートアップが最初にやるべきブランディング——ロゴより先に言葉を決めるのアイキャッチ

ロゴから始めると、あとで作り直すことになる

創業したばかりの経営者から「まずロゴを作りたい」という相談をよく受けます。気持ちはよくわかりますが、これは家の外壁の色を決めてから間取りを考えるようなものです。土台となる言葉が決まっていないうちにビジュアルを固めてしまうと、事業の方向性が見えてきたタイミングで、結局作り直すことになります。

図解

ビジュアルより先に決めること


  1. 顧客課題
    誰の何を変える事業か

  2. 約束する価値
    一文で残す中心メッセージ

  3. 名前と物語
    言葉の一貫性を作る

  4. ロゴと表現
    中心メッセージを視覚化

中心の言葉を固めてから、名称・ロゴ・表現へ展開する。

創業初期は特に、事業内容そのものが変化しやすい時期でもあります。当初想定していた顧客層やサービス内容が、実際に動き出してから変わることは珍しくありません。ビジュアルを先に固定してしまうと、この変化に対応しづらくなります。

資金にも限りがある創業期だからこそ、作り直しのコストは特に痛手になります。ロゴやウェブサイトを一度作ってから半年で刷新するとなれば、その分の費用と時間を丸ごと失うことになりかねません。限られたリソースを、後から作り直す作業に使ってしまうのは、創業期において最も避けたい損失の一つです。

ロゴから始める失敗

あるD2Cブランドは、創業初期に洗練されたロゴと世界観を先に作り込みました。しかし半年後、実際の顧客層が想定と異なることが判明し、トーンを一新することになりました。デザイン費用も、社内で浸透させた時間も、やり直しになってしまったのです。ビジュアルは、言葉が固まったあとに作る方が結果的に近道です。

別のケースでは、創業メンバー内で「誰に向けたブランドか」の認識がずれたまま、見た目の好みだけでロゴを決めてしまい、後から加わったメンバーが「なぜこのデザインなのか」を説明できない状態が続いていました。言葉がないと、デザインの意図を引き継ぐこともできません。新しく採用した社員が、ブランドの世界観を理解するのに何か月もかかってしまうのは、多くの場合この言語化の欠如が原因です。

言葉を先に決める理由

ロゴや配色は「何を感じてほしいか」を視覚化したものにすぎません。感じてほしいことが定まっていない段階でビジュアルを作ると、装飾はきれいでも中身が伴わない、いわば骨組みのない外壁のような状態になります。先に言葉を固めることで、その後のデザインも一貫性を持って進められます。

言葉が先にあることで、デザインの良し悪しを判断する基準も明確になります。「なんとなく好き・嫌い」ではなく「この言葉を体現できているか」という軸で議論できるようになり、複数人で意思決定するときの迷いも減ります。

決めるべき3つの言葉

ビジュアルより先に、次の3つを言葉にしておくことをおすすめします。

  • 誰に:最初に届けたい、具体的な顔が浮かぶ相手
  • 何を:その人のどんな課題を、どう解決するか
  • なぜ:数ある選択肢の中で、なぜ今それを始めたのか(創業のきっかけ)

「まだ顧客も少なく、正解なんて分からない」と感じるかもしれません。それでも構いません。仮説でいいので言葉にしておくことで、後から実態とズレたときに「何を直せばいいか」が明確になります。何も決めずに進めるより、ずっと軌道修正がしやすくなります。

3つの言葉は、一人で決めるより、創業メンバー全員で認識を揃えておく方が望ましいです。後から「実はイメージが違った」という食い違いに気づくのは、たいてい採用や外部発注のタイミングで、修正コストが大きくなってからです。

ロゴ・デザインへの接続

言葉が固まったら、ようやくデザインの出番です。「なぜ」の部分——創業のきっかけや世界観——が、そのままロゴのモチーフや配色のトーンにつながります。順序を守ることで、デザイナーへの発注も「なんとなくおしゃれに」ではなく、具体的な言葉を伝えられるようになり、手戻りも減ります。

デザイナーに依頼する際も、決めた3つの言葉をそのまま共有資料として渡すことをおすすめします。感覚的な好みだけで発注するより、言葉という共通の土台があることで、提案されたデザインが的外れかどうかを判断しやすくなります。

言葉は成長とともに磨き直す

創業期に決めた3つの言葉は、永遠に固定するものではありません。事業が成長し、顧客層や提供価値が明確になってきた段階で、改めて言葉を磨き直す機会を持つことをおすすめします。最初の仮説をたたき台に、実際の手応えを反映させていくことで、言葉自体もより精度の高いものに育っていきます。

磨き直しのタイミングとしては、資金調達や大きな採用を行う節目、あるいは主力サービスが切り替わったタイミングが分かりやすい目安になります。節目を意識せずに漫然と時間が過ぎると、言葉と実態のズレに気づくのが遅れがちです。定期的にカレンダーに見直しの予定を入れておくくらいの仕組み化が、忙しい創業期には有効です。

投資家・採用候補者への影響

言葉が定まっていることは、資金調達や採用の場面でも効いてきます。投資家は事業の将来性だけでなく、経営陣が自社をどう言語化しているかを見て、その解像度から事業理解の深さを判断することがあります。同様に、採用候補者も「この会社は何を目指しているのか」が明確であるほど、入社後のミスマッチを避けやすくなります。言葉の整備は、対外的な発信のためだけでなく、こうした重要な意思決定の場面でも力を発揮します。逆に言葉が曖昧なままだと、面談のたびに説明の内容が微妙に変わり、相手に一貫性のなさを印象づけてしまうリスクもあります。

日々の業務にも言葉を落とし込む

決めた3つの言葉は、パンフレットやウェブサイトに一度掲載して終わりにするのではなく、採用面接のトークスクリプトや、日々の顧客対応マニュアルにも反映させていくと、社内への浸透スピードが上がります。言葉は使われて初めて定着するものであり、額縁に入れて飾っておくだけでは、時間とともに形骸化してしまいます。朝礼やミーティングの冒頭で、決めた言葉に関連するエピソードを共有する習慣を作っている会社もあります。特別な仕組みを作らなくても、日常業務の随所で言葉に触れる機会を意図的に増やすことが、地道ながら最も効果的な浸透策になります。

まとめ

創業期は焦ってビジュアルを整えたくなるものですが、まず固めるべきは言葉です。誰に、何を、なぜ届けるのかが定まってから、ロゴや配色は初めて意味を持ちます。ロゴを発注する前に、まずは紙1枚にこの3つの言葉を書き出してみてください。それが、これから何年も使い続けるブランドの一番確かな土台になります。

← 火種のトップへ戻る