むかし、ある村に、
たいそう腕のよい職人がいました。
職人は、誰よりも美しい椅子を
つくろうと考えました。
遠くの森から立派な木を運び、
形を整え、何度も磨き、
細かな飾りまで丁寧に彫りました。
長い月日をかけて、
世界でいちばん美しい椅子が
できあがりました。
職人は、村中の人が欲しがるだろうと、
立派な椅子を店先に飾りました。
けれど、村の人たちは
誰も椅子を買いませんでした。
その村で必要とされていたのは、
畑仕事の合間に腰を下ろせる、
軽くて丈夫な腰掛けだったのです。
美しい椅子は、
畑へ運ぶには重すぎました。
職人は、村の人が何を求めているのかを
一度も尋ねていませんでした。
こうして世界一美しい椅子は、
誰にも使われないまま、
店先に飾られ続けましたとさ。
